国内の動向を見るにはひとつのコンポーネントとして個人消費の動向は重要ですので、マインドデータと、ハードデータを併せて見ています。
消費が、長い目で景気の山谷を生み出すと認識しています。
例えば、米国では小売売上高という統計を踏まえて、金融政策の動向を見ることが多いです。勿論、直接株価の予想やGDPを予想するという意味でも大事ですが、金融政策の動向を予見するという意味でも非常に重要です。
それは日本でも同様です。ただ、日本の場合は最終的にはインフレにつながる気配が感じられるかどうか、というところが大事です。その意味でCPI等の物価統計と併せて消費統計を見て、日銀の政策判断を予見する重要な判断材料にしています。
例えば、企業が値上げした時に売り上げが落ちる経験をしてしまうと、その後、再値下げに戻ります。逆に値上げしても消費が落ちていない、というのが確認できれば消費活動、物価上昇の基調が強いということで、日銀の追加緩和が遠のいたのではないかということを予見します。
全体感を見るためにマクロ統計として、例えば百貨店の銘柄を見る上で百貨店協会が発表する月次の売上高は必ず確認します。さらに当社の場合は、中長期の投資戦略の立案が重要になるため、単月ではなく長い目線でこの業界がどうなっているのか、トレンドは何なのか、という関心を持ってマクロ統計を活用しています。
まず、これはアメリカも同じだと思うのですが、サンプリングに課題があり、例えば、家計調査は調査の対象としている人たち自体に偏りがあるのではないかと感じています。
その点、そういった偏りが少しでも是正できるよう、サンプルの幅を広げてほしいですね。
そして、新しい消費形態もその都度感応度高く反映させていく、もっともっとスピーディーでビッグなデータを獲得することができれば良いと思います。
家計簿を全て見られるのなら別ですが、例えば、根本的な消費の仕方の変化を指し示す部分として、ラクマやメルカリのようなCtoCが今後も増えるとなると、それをどのように捉えるか、株式市場を見る上で非常に重要です。
その通りです。
我々はエコノミストと違い、純粋なマクロ調査ではなく、投資戦略を立てるのが仕事です。従って、ルーチンとしてある程度経済指標を見るけれど、それと同時に必ずマーケットのコンセンサスをチェックします。だからこそ、今の統計では捉えられていない動きを捉えることには非常に関心が高いのです。
例えば、クリスマスシーズンで、既存の経済統計を見ると、数字が思っていたより低かったとします。それに対してマーケットは素直に「消費が弱いんだ」と解釈して反応したとします。しかし、私たちは本当にそうかと疑うわけです。物理的に店舗に行かなくなっただけで、逆にオンラインの消費が伸びているから、それを含めるとむしろ去年より消費が多いぞという分析をします。現状、このような分析ができるデータは決して多くありませんが、そういうことが出来れば投資戦略を立てる者として、業務の幅が拡がると思います。
非常に期待しています。
例えばモノ消費、コト消費みたいなテーマってよく話題になるじゃないですか。そういった消費のトレンドを捉えることが出来ると思います。例えばクレジットカードの特性を使って男女別で消費活動を見ることが出来れば、世帯の中で男性が服を買えるようになったというのは本当に景気好転の兆しかもしれない。年齢別で見ることが出来れば、シニアの層、貯蓄はあるけど今まで時間がなかった人たちが消費を活発に行い始めるかもしれない。そういう仮説を立てることもできますし、その仮説に対して実際にどうなんだろうという検証をするデータになり得ると思います。既存の情報では、どうしても定性的なものに頼らざるを得ません。ここを変えるポテンシャルを感じます。
指数として多様性があるといいと思います。今や大量生産・大量消費の時代ではないので、ヘッドラインの消費のパイの動向だけ見てもトレンドをつかめません。年齢別、男女別、地域別と様々な切り口でみると、それぞれの動きがバラバラに見えてくると思います。政策的な観点でも、あるいは投資判断という観点でも、全体をざっくり見るのではなくて、セグメント毎にみることが必要だと思います。
必要とされているのは逆ですね。
大量生産、大量消費の時代であれば、より画一的なプロダクトをみんながみんな購入するという世界だったので、それでも十分分析に足る部分はあったかもしれません。しかし、現代はかなり消費が多様化して各セグメント毎にメーカーも小売りチャネルも特化しているから、セグメント毎に消費活動を把握しなければ、外部環境としての需要の浮き沈みを把握しづらいわけです。
例えば、「爆買い」というのがありますが、これは投資テーマとしては非常に大きい。しかし、消費全体の平均値でみては把握ができない。だから外国人観光客という特定セグメントに絞った消費動向を見たい訳ですが、今まではデータの制約があるが故に、定性的に論じるしかないテーマでした。そういったものをビッグデータが解決してくれればこれは大きい。このように投資テーマに沿ったセグメント毎のサブインデックスを分析できると非常にありがたいと思います。
目的によって違いますが、GDP予測であれば家計調査や業界統計を使います。しかし、月次や四半期の変動を追うには使うに堪えず、信頼性・正確性に疑問を持ちながら使用しているのが実情です。また、日銀の消費活動指数は公開が40日後と少し遅いとも感じています。一方、業界統計についても、百貨店、スーパー、コンビニは20日後、外食は25日後に公開であり、速報性は評価していますが、サービス消費をみることができないため網羅性には限界があると感じています。
それらの統計への関心は高いです。報告書を見る限りは四半期のある期間に空港でインタビューを行うという形式のため、かなりバイアスのかかっている統計ではあると思いますが、速報性があって有用だと思っています。10-12月の数字が1月に出てくるのというのは早いと考えています。
商業動態統計や家計調査等の定量的なマクロ情報も話題になりますし、アナリストから情報を仕入れて、今月の外国人消費が芳しくない等の定性的な情報も話題になります。
しかしこうした情報には、バイアスがあるという課題があります。定性的な情報にバイアスがあることは勿論、定量的な情報についても回答する人がある程度特殊であり、サンプルにバイアスがかかっています。
例えば、家計調査では毎日家計簿をつけることがどれだけ一般的なのかという問題もあります。サンプル数を今の100倍くらいにするか、今の家計消費状況調査のように、月1回家計簿を記入する方法にするとよくなると考えています。また、家計調査も2人以上世帯がデフォルトであり、世帯数の約三分の一を占める単身世帯を考慮できていないという問題が残ります。そういう意味ではサプライ側のデータ、つまり商業動態のほうに信憑性がありますが、サービス消費は含まれないため、どちらの統計調査においても色々と課題は残ります。
テーマパークやホテル、フィットネスクラブ、介護などにも関心がありますが、特に関心が高いのはオンラインサービスです。しかし残念ながら情報が不足しており、分からないことが多く存在しています。
その通りです。例えば、ゲーム業界はゲームの予約状況とかで見ることはでき、テーマパークは月次の入園者数などで見ることができます。また、スピード感等の問題はありますが、交通機関や輸送機関などは統計があります。
しかし、オンラインの会社の場合はそういった情報を見ることができません。
オンラインサービスを分類してインターネットの動向をはかる上では、規模感がわかればいいと考えています。例えば、1万人のデータがあって、1年間で何億円くらいになるなどです。家計調査によると8000世帯で年間30億円の消費があり、そこからインターネット消費がどのくらいの規模感になるか考えられると興味深いと思います。
カード情報は興味深いと思っています。例えば、政府統計や業界統計などの統計と比べてどれくらい乖離があるのかという点です。乖離しているほど、そこに面白い情報が眠っているかもしれないと思います。
また、既存統計にはサンプルにバイアスがあるという課題がありましたが、「JCB消費NOW」では家計調査特有のサンプルバイアスを解消できると思います。さらに、スーパーはともかく八百屋でカードを使う人は少ないでしょうから、野菜の価格変動などは極力除去されるでしょう。これにより、投資のテーマにそぐいやすいと思います。
ただし、家計調査とは異なるサンプルのバイアスも出て来ると思います。例えば、年齢などです。ただ、前年比のデータがあれば、それはなくなっていくと思います。
一方、カードが使われやすい業種に偏る可能性があるため、データに偏りが生まれることが考えられます。また、時系列的にカードの消費割合が増えているため、そのトレンドを排除する必要があります。
性別・年齢、そして利用業種を組み合わせて特定の投資テーマカテゴリなどが作れそうな気がします。データセットに「単価」の情報がついてくれば高価、安価といったエッジが出てくると思います。
経済社会の登場人物は大きくわけて家計,企業,政府です。社会の幸福として目指すべきは家計が幸福になっているかです。
例えば,企業部門がたくさん儲かって内部留保がたまったとしてもそれだけでは社会として幸福とは言えません。同様に,政府部門におカネが集まって(例えば税金がたくさん入ってくる)潤ったとしてもそれで社会が幸福になったとは言えません。あくまで大事なのは家計部門です。
では家計部門の幸福をどうやって測るかというと,ひとつは所得です。家計の所得が増えればそれは良いことです。しかし家計部門の所得というのはまだピントが少しずれています。所得が増えて貯金が増えればそれでいいかというと決してそうではなく,やはり最終的には稼いだおカネを使うことによって幸福が高まります。もちろんおカネが全てではありません。おカネでモノを買う以外の要素も幸福には深く関係してきます。
しかし資本主義社会である以上,やはりおカネでモノを買ってそれが人々を幸せにするという側面が大事です。「消費」というのは人々がおカネを使う行為を計測した統計ですから,上に述べた意味で,人々の幸福度合いを測っているとも言えます。
こういう認識を政府や中央銀行はもっているので,その国の「消費」がどうなっているのかということには特別な意味があります。国の経済活動を測る統計としてはGDP(国内総生産)というのがあり新聞などにもしばしば登場しますが,「消費」はGDPの最も大きな部分(6割)を占めています。
そのため,景気の良し悪しを判断する際には「消費」がどっちの方向に向かっているかが重要なポイントになります。
最も広く使われているのは総務省統計局が行っている家計調査です。
これは1万世帯弱の家計に家計簿をつけてもらって何にどのくらい使っているのかを調べるというものです。家計調査はGDPの消費を推計する際の原データとしても使用されています。この家計調査に協力してくれる人を探すのは難しいと聞いています。皆さん日々の生活に忙しいのでなかなか政府の統計作成に協力する余裕がないのかもしれません。回答者の負担が軽くないという点は克服すべき課題です。
家計調査以外では経済産業省が行っている商業動態統計というのがあります。家計調査は家計の側から消費の数字をつかもうとするのに対して商業動態統計はモノを売るお店の側から消費の数字をとろうとするものです。購入と販売というのは当然密接に関係しているものですが,乖離することも少なくありません。
例えば,最近はだいぶ下火になったと言われている爆買いですが,これは販売サイドである商業動態統計には現れる一方,購入サイドである家計調査には現れません。
また,両方に共通する難点としては公表が遅いということが挙げられます。現代の生活やビジネスの統計の速度が追いついていないということです。
2017年1月に統計改革推進会議というのが発足し,菅官房長官を中心に統計の全面的なリニューアルの作業が進んでいます。私もメンバーとして参画しているのですが,かなり大掛かりな取り組みと言ってよいと思います。どうしてこんなことが始まったのかというと底流には2つの要因があります。
第1は,経済成長率の鈍化です。日本経済はかつては高い成長率だったわけですがここ20年ほどは振るいません。経済成長率の数字は毎年ゼロの近くをウロウロしています。景気が悪いとマイナスになり,少し持ち直すとプラスになりという具合で,いずれにしてもゼロの近くというわけです。しかしマイナスとプラスでは大きく意味が違うわけで,マイナスであれば適切な対策を政府や日銀が打たなければいけない。そうなると,マイナスなのかプラスなのかを精緻に測る必要が出て来る。一昔前のように毎年10%も成長しているのであればその周りで少々数字が動いても騒ぐことではない。だからさほど精密に測る必要もない。しかし今のようにゼロを挟んで数字が微妙に動くとなると精密な計測が必要で,そのためには精度の高い統計が必要になってくるというわけです。実はこれは日本だけの話ではなく主要先進国はどこも似たり寄ったりで,グローバルな課題になっています。
第2は,統計にリアルタイム性が求められるようになっているということです。
先ほども触れたように,現代の生活やビジネスでは情報通信技術の発展を背景として速度がどんどん上がってきています。迅速な意思決定が求められているということです。ところが統計の世界はまるで時間が止まってしまったかのような有様で,戦前または戦後まもなくの頃に決められた流儀が今も残っています。
統計は継続性が大事なのである程度の保守性はやむを得ないと思うのですがそれにしても現状は遅れがひどすぎます。その結果,ビジネスや生活の現場では国の作成する統計が活用されないという事態が起きています。
例えば2か月遅れくらいで何かの統計が出てきても,それは既に過去の話なので,いま現在の意思決定を企業が行う際には役に立たない。これではまずいということで統計の迅速化を図ろうということを政府も考え始めたわけです。
今回の取り組みは「高精度かつ迅速な統計を」という先ほど申し上げた時代の要請に正に沿うものだと考えています。
私は東大の同僚の柳川範之教授と「統計の民営化」というコンセプトを提唱しています。どういうことかと言うと,これまでは統計と言えば政府の専売特許だった。データを集め加工し公表してという全てのプロセスを政府がやっていた。民間では不可能あるいはあまりにコストがかかるので政府しかやれなかったのだと思います。
しかし今やデータは民間の方にたくさんあり,それを解析する技術も民間にある。そうであれば統計を政府の専売にするのはもうやめて民間に開放すべきだ,こういうことです。今回の取り組みは統計の民営化の第一歩だと見ています。
ただ,この取り組みを進めるJCBとナウキャスト両社に考えておいて欲しいことがいくつかあります。
第1は,クレジットカードデータから読み取れる情報を上手に抽出することを心がけていただきたい。個々の利用者の利用額を集計することによって日本経済全体の消費の動向が見えてくるのは間違いないことです。しかしそれだけではいかにももったいない。
例えば,ある月に全体の消費額が10%増えたとしましょう。利用者全員が利用額を10%増やしたのかもしれませんが,そうではなくて,大口の利用者が20%くらい増やしてそれが全体の平均を引っ張ったのかもしれない。
前者であれば多くの人の幸福度が上がったと言ってよいが,後者であれば一部の限られた人の幸福度が上がったに過ぎない。もっと言えば,後者の場合は利用者間の消費の格差が拡大しているので社会的には望ましくないという面があります。
これは一例に過ぎませんが,言いたいのは,利用額を闇雲に集計してしまうと大事な情報が消えてしまうことがあるということです。折角のビッグデータなのですから,それがもっている全ての情報をうまく吸い取るという技術を確立して欲しいです。
第2は,データの癖という問題です。
家計調査のような国の統計はサンプルの規模が小さいという難点はあるものの,色々な人から遍くデータを集めるというところに細心の注意を払っています。これに対してビッグデータは企業が業務を営む中で派生的に生まれたものなので,広く遍くというわけにはいかず,どうしても偏りというか癖というか,そういうものが含まれています。これを放置すると,出てきた数字が日本経済の姿を適切に映さないということになってしまう。クレジットカードデータもこの例外ではなく,そのカードを保有していない人の経済活動はそこには反映されません。
こういう癖はサンプルバイアスとよばれていて,その除去のための統計手法がいくつか提案されています。しかし残念ながら現状では万能な手法はありません。
上記2つのポイントはいずれも技術的に非常に難しい問題をはらんでいます。今回はビッグデータ解析のノウハウと豊富な経験をもつナウキャストが取り組みに参画しており,それらの問題解決に挑戦します。私自身、積極的に知見・ノウハウを提供し、この取組を支援したいと考えています。決してやさしくはないでしょうが,どんな成果が出て来るか今から楽しみです。
統計改革推進会議では,ビッグデータを使って経済統計を作る試みをいくつか立ち上げようとしていますが,今回の取り組みがその模範になることを期待しています。